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日本文学や文化理解のための日本語教育を考える:日本語教科書と国語教科書の語彙比較研究から

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日本文学や文化理解のための日本語教育を考える:日本語教科書と国語教科書の語彙比較研究から
日本文学や文化理解のための日本語教育を考える:
日本語教科書と国語教科書の語彙比較研究から
JAPANESE LANGUAGE EDUCATION
FOR UNDERSTANDING JAPANESE LITERATURE AND CULTURE:
RESEARCH ON WORD COMPARISON
BETWEEN JAPANESE LANGUAGE TEXTBOOKS
AND KOKUGO (NATIONAL LANGUAGE) TEXTBOOKS
大須賀 茂
シートン・ホール大学
Shigeru Osuka
Seton Hall University
1.はじめに
日本語上級学習者に小学校低学年用の国語教科書を読む機会を与えると、そこ
に使用されている語彙の多くを知らない場合がある。国語教科書には、日本語教
科書に含まれていない何か特別な語彙の傾向があるのではないだろうか。もし、
それらの語彙が理解できれば、日本語上級学習者も国語学習者の語彙に近づける
のではないだろうか。更に、日本文化や文学を理解する時の助けにもなるのでは
ないだろうか。
もちろん、国語教科書の学習者は第一言語の習得を目的としているが、日本語
教科書の学習者は第二言語の習得を目的としている。そこには、学習目的や学習
環境の大きな隔たりが存在しているので、日本語学習者は国語学習者と同じ様な
語彙を理解しなくてもよいのかもしれない。また、学習対象者を見ても、日本語
教科書の学習者は青年・成人で、日常生活に必要な単語から政治・経済・医療な
どの各分野での幅広い語彙が扱われている。それに比べて、国語教科書の学習者
は小学生で、まだ認知力が十分ではなく世界観に限りがあり、日常生活に必要な
語彙が中心であると思われる。しかし、日本語教師が日本語教育をより良く理解
する為には、国語教科書に扱われている語彙を理解する事も大切ではないだろう
か。
本稿では、小学校低学年用の国語教科書には載っているが、日本語教科書には
扱われていない語彙を比較・分析することで、日本語教科書では扱っていない語
彙の傾向を考察してみたい。国語教科書にはどんな語彙や内容の傾向があるのだ
ろうか。日本語上級学習者が、国語教科書を理解するにはどの様な語彙が今後の
日本語教材に必要なのかも考えてみたい。
2.日本語教科書と国語教科書の語彙比較から
米国で使用されている日本語教科書(総合型2種類 Vol.1-2 の4冊、技能型2
種類 Vol.1-2 と Vol. 1-3 の5冊)合計9冊と光村図書の国語教科書、小学1年生
から3年生用の『こくご1上 かざぐるま』、『こくご1下 ともだち』、『こ
くご2上 たんぽぽ』、『こくご2下 赤とんぼ』、『国語3上 わかば』、
108
『国語3下 あおぞら』の合計6冊の語彙を比較し、そこに扱われている単語の
傾向を考察した。1 それにより、国語教科書には扱われているが、日本語教科
書には扱われていない語彙の傾向を理解したい。しかし、国語教育でも、漢字学
習のように学習しなくてはならない語彙は決まっておらず、また、どの出版社の
教科書を使用するかにより、そこに扱われている内容も違い語彙にも違いがある。
更に、品詞の分類の仕方によっても多少の違いがあるので、ここでの語彙の分類
結果は、語彙の傾向を理解するための参考として取り扱う。
日本語教科書では扱っていない国語教科書の語彙は 461 語であった。内訳は、
国語教科書1上に 82 語、1下に 93 語、2上に 80 語、2 下に 101 語、3 上に 47
語、3下に 58 語であった。また、名詞が 261 語、複合名詞が 24 語、動詞が 54
語、複合動詞が 35 語、副詞が 39 語、オノマトペ(擬態語・擬声語)が 40 語、形
容詞が 4 語であった。
日本語教科書に扱われていない語彙表
1上 1下 2上 2下 3上 3下 合計
割合%
名詞
56
57
31
55
30
32
261
56.61
複合名詞
7
1
12
1
1
2
24
5.20
動詞
3
9
13
12
4
13
54
11.71
複合動詞
0
8
4
16
4
3
35
7.59
副詞
4
7
14
6
3
5
39
8.46
オノマトペ
11
9
6
8
4
2
40
8.68
形容詞
1
1
0
1
0
1
4
0.87
形容動詞
0
1
0
1
1
0
3
0.65
連語
0
0
0
1
0
0
1
0.23
82
93
80
101
47
58
461
100
合計
形容詞の数が少ないのは日本語教科書が形容詞を沢山網羅しているからだと思
われる。また、カタカナに関しては、国語教科書よりも日本語教科書の方が多く
のカタカナを多く扱っている。敬語に関しては、小学 1 年生から 3 年生までの国
語教科書のためかあまり載っていなかった。しかし、上記の表より、複合動詞・
副詞・オノマトペが多く国語教科書に使用されている。特に、副詞やオノマトペ
は日本語表現の特徴であると言われながらも、日本語教科書にはあまり使用され
ていない。2
さて、日本語教科書に扱われていない、国語教科書の語彙と内容を考察してみ
たい。国語教科書1上の特徴としては、名詞56語とオノマトペ11語をあげる
ことが出来る。名詞では、自然(動物・植物・鳥・昆虫)や道具や場所や乗り物
の語彙が多く扱われていた。また、発音が紛らわしい語彙が紹介されている。例
えば、「ねこ」と「ねっこ」、「まくら」と「まっくら」、「おもちゃ」と「お
もち」など。更に、終助「よ」を使って詠嘆の気持ちを込めた表現の使用があっ
た。例えば、「ともだち いるよ」「いちねんせいだよ」など。また、オノマト
ペは「わくわく」「らんらん」「るんるん」「わいわい」など、楽しい気分の表
現を使用している。オノマトペは音を表記することにより、日本人として同じよ
うに聞える音のアイデンティーの統一を図るのに重要な役割はたしているのでは
109
ないか。例えば、「わくわく」は良いことで興奮する感情などを表すという日本
人としての統一の感覚を教えている。内容については、『おむすび ころりん』
と『大きな かぶ』が扱われている。『おむすび ころりん』では韻を沢山使用
した楽しい話で、幸せなおじいさんとおばあさんとの関係、動物たちとの触れ合
い、勧善懲悪思想、周りの人に分配をすることの大切さなどを教えている。更に、
『大きな かぶ』では共同作業や動物との協調性の大切さ等を紹介している。
国語教科書1下は、動詞と複合動詞が増え、動作の語彙を多く含んでいるのが
特徴である。また、「ぐんぐん」「どんどん」「ぴんと」「こわごわ」などの副
詞が使用され動きをともなった描写表現が扱われている。名詞の特徴は日常生活
で使われている自然や動物に関係する語彙が扱われている。また、動詞との関係
では、「いやがる」「うめる」「くわえる」「やぶれる」などがあり、複合動詞
では「とびのる」「ふきとばす」「なりだす」「ほりかえす」などが使用されて
いる。更に、「がっこうが すきなんだな」などの感動や詠嘆の意を表す終詞が
使用されている。また、「おうい」「おいでよう」など呼びかけの表現や、「だ
ろう」などの連語で話し手の推量や想像などを表す表現、「とびのろう」「かえ
ろう」などの誘いの表現が使用されている。内容については、『くじらぐも』で
自然を描写した比喩表現、自然の中で仲良く遊ぶことなどの情景描写などが見ら
れる。更に、『ずうっと、ずっと、大すきだよ』では、犬への愛情や、動物の病
気と死を扱っている。動物の病気や死を通して、自然を理解させようとしている。
また、『どうぶつの 赤ちゃん』では、子供とお母さんの人間関係、『たぬきの
糸車』は昔話しで、動物と人間との理想的な関係や、人間が動物に対して優しく
する意味、そして、動物でも恩返しをすることなどを情緒豊かに述べている。
国語教科書2上の特徴は、「しめりけ」や「うみたて」などの複合名詞、「つ
まみだす」や「とびかかる」などの複合動詞、「ぱっちり」や「びくびく」など
の副詞の数が多い。感情表現で「ごめんね」「さむかったね」等の「ね」や「お
もたいな」「ねぼうしているな」「こまっているな」等の「な」が頻繁に使用さ
れている。内容については、『ふきのとう』という春の季節を象徴する植物を扱
い、日本人としての春の共通概念を教えている。海外の作品であるが『スイミ
ー』では、一匹の小さな魚の知恵と魚の群れが協力して敵に対して勝利する姿を
描いて、団体行動の大切さ等を教えている。また、『くまの子ウーフ』では、動
物を主人公に使って擬人化表現を使用している。「目をぱちくり」「たまごを
ポンと うみおとしました」などの内容から、「ぱちくり」はびっくりして目を
大きく見開いたり、まばたきしたりするさま。「ポン」はなにか丸い物が落ちる
音を日本人の共通概念として教えている様である。
国語教科書2下は「ひびく」「しずむ」「ふせぐ」などの動詞と「かけよる」
「みとれる」「とびかかる」などの複合動詞の数が多い。「ふかれて、ゆれて、
とけて、ふんばって」など様子を描写する語彙も使われている。また、「ような、
みたいな」の会話文の導入があり、「木さ」「できているのさ」の「さ」や「そ
うだね」「まちがいないね」等の「ね」が文末に良く使われている。内容につい
ては、『お手紙』で、「がまがえる」を主人公に様々な自然と動物と昆虫のふれ
合いを紹介し、『スーホーの白い馬』でも馬と人間のふれ合い、『おへそって、
110
なあに』では母親とのふれ合いを紹介し日常生活で大切なことを教えている。更
に、昔話の『力太郎』では表現や語彙に方言が多かった為に、学習者としては難
しい作品であった。
国語教科書3上から、日本語教科書で扱われていない単語の数が47語と減少
している。表現に男女差の言葉が扱われて、女性言葉で「どんな音があるのかし
ら」「これにするわ」「ちょうだい」などの表現がある。また、内容は森の中の
自然を題材にした『きつつきの商売』の話で会話文を紹介している。また『あり
の行列』や『わたしと小鳥とすずと』などでも、学習者の身近な自然を扱ってい
る。内容の特徴では物語や説明文などが多い。
国語教科書3下の特徴は「ふかす」「くべる」「まるめる」「かかえる」など
の動詞が多かった。こちらの内容も自然が中心に扱われている。物語の『ちいち
ゃんのかげおくり』では、人間の生と死の問題を過去の歴史の中から扱かい命の
大切さについて考えさせる学習をしている。『動物とくらす』の説明文では動物
と人間の係わり合い方、物語の『モチモチの木』や説明文の『むしのゆりかご』
では、雑木林の中で昆虫の発見などを扱っている。
全体的には、国語教科書には複合動詞・副詞・オノマトペが日本語教科書と比
べると多い。それらは、感情や事象の描写に有効であり、文学作品の鑑賞には不
可欠な要素である。また、日本人として共通観念を共有する基本の教育でもある。
小学校低学年から国語教科書で、動物・植物・昆虫など身近な題材を使い、自然
の大切さや畏敬の念等を教えている。また、団体生活に慣れるように、国語教科
書を通じ他人を助け合うことや皆で協力することの大切さ等を教えている。国語
教科書の特徴は、日本語教科書と比べると、物語文や説明文を扱って内容のある
話を含んでいる点である。
3.国語教科書語彙の特色
A) 名詞 (56.61%) 名詞の261語のうち多かったのは、植物や動物など自然に
関係のある単語であった。例えば、
a) 木、くわ、ぶな、かぶ、雑木林、など。
b) 植物、ごま、だいこん、かぶ、なす、きのこ、小麦、竹やぶ、
たんぽぽ、しろつめぐさ、など。
c) 昆虫、てんとう虫、かぶとむし、かまきり、せみ、かたつむり、
まつむし、がまがえる、など。
d) 鳥、きつつき、あひる、からす、おうむ、すずめ、はちどり、
ふくろう、はちょどり、めんどり、など。
e) 動物、きつね、いのしし、しまうま、かもしか、ねずみ、ぶた、
やぎ、など。
f) 魚、あじ、さば、たい、くらげ、いるか、いそぎんちゃく、など。
更に、状態・行動・道具・時間・季節感・複合名詞・話し言葉などがあった。
g) 状態、あざ、きず、あくび、ためいき、しんこきゅう、ごうれい、
はく手、はだし、など。
h) 行動、たんけん、はかまいり、ふれあい、実験、発表会、おにごっこ、
111
かくれんぼ、おどり、たいそう、でんぐりがえり、いたすら、
ちょうせん、など。
i) 道具、はしご、ひも、ふた、ほうき、まくら、まな板、かま、かまど、
うす、うちわ、おけ、にだい、こずち、矢、弓、など。
j) 時間、ゆうひ、よいのくち、やかん、など。
k) 季節感、わかば、こいのぼり、くりひろい、など。
l) 話し言葉、はっぱ、しっぽ、てっぺん、ねっこ、はらっぱ、など。日
本語教材では、「葉」であるが、国語教材では「葉っぱ」で、日常会話で
は良く使われている。また、「根」は「根っこ」など。
B) 複合名詞 (5.20%)名詞と動詞の組み合わせの、こま回し、はかまいり、はな
つみ、みずまき、手つき、あやとり、いすとり、くりひろい、など。
動詞と名詞の組み合わせの、かけあし、うたごえ、など。
C) 動詞 (11.71%) 動詞では、うずくまる、うなる、さからう、かさなる、しぼ
む、つまずく、どがる、はりきる、ぶんばる、またがる、まよう、みだれる、も
がく、みぐる、ゆれる、などがある。また、うめる、ふくらませる、こしらえる、
あらす、おさめる、かじる、くべる、くわえる、さらう、ちらす、どける、ふか
す、など。
D) 複合動詞 (7.59%) 複合動詞は、連続した動作をより豊かな表現を可能にす
る語彙である。(-とばす)けとばす、はねとばす、ふきとばすや(-おちる)
のころげおちる、流れ落ちる、(-かかる)とびかかる、ひっかかる、など。そ
の他に、とびのる、みとれる、見せびらかす、おしつける、かけよる、くいしば
る、こねあげる、すいこむ、だきあう、たちふさがる、つきささる、つみかさね
る、なりだす、のみこまれる、はねおきる、ひきしぼる、ふりはなす、ふりむく、
ほりかえす、もぐりこむ、など。複合動詞は、「英語圏の学習者の中には複合動
詞が使いこなせない人が少なくない」と言われている。3
E) 副詞 (8.46%) 日本語では、副詞は事象の描写をより効果的に伝える為に有
効である。
状態副詞には、ぼんやり、びっしょり、ぐったり、しゅんと、など
程度副詞には、そっくり、きっちり、そっくり、など
陳述副詞には、ずいと、ただちに、やがて、など
F) オノマトペ (8.68%) オノマトペ(擬態語・擬声語)の国語の教科書に載っ
ている擬態語には、小学生低学年の為か、語呂を繰り返し表現する単語が多かっ
た。3 例えば、うきうき、ぐんぐん、ころころ、こわごわ、くるりくるり、ど
んどん、ふりふり、などの単語があった。また、擬声語として、ミーンミーン、
キンコンカンコン、キャー、ニャーオ、コケコッコー、など良く耳にする単語が
あった。4
G) 形容詞 (0.87%) 形容詞の数が少ないのは日本語教科書が大多数の形容詞を
網羅しているためである。するどい、けたたましい、まずしい、よわよわしい、
でかい、あきらか、まっくら等が日本語教科書には扱われていなかった。
H) 形容動詞 (0.65%)
がくがく、あきらか、ざんざん、など。
112
I) 連語 (1 語 0.23%)
たまらない
4.日本語教科書と国語教科書の目的の違い
教科書にはそれぞれの目標や目的がある。日本語教科書は、総合型教材、技能
型教材、言語要素別教材、対象別・目的別教材、日本事情教材の 5 つに分類でき
る。4 また、教材を作成する場合は、言語要素の音声・文字・語彙・文法の4
要素と、「聞く・話す・読む・書く」の四技能と「文化・連結・コミュニティ
ー」を盛り込むことが重要であると言われている。5 先ず、ここでは日本語教
科書の目的を見たい。
総合型教材は、学習者は大学生で,言語運用能力(プロフィシェンシー)を基
本にした外国語教育の教科書である。話す事と聞く事を重視しながらも、「聞
く・話す・読む・書く」の四技能を身につけ、初級学習者にはコミュニケーショ
ン重視の立場から、各課では50から60の単語を紹介し文法事項はできるだけ
抑えたと記されている。6 また、文化に関しては、トピックが各課の内容とも
関連している。そして、挨拶・教育・大学生活・近所付き合い・家・過去の有名
な事柄・食べ物・買物・病気の時などを扱っている。7 更に、総合型教材は日
常会話が理解できるために、聞き取る能力を養う事を目的としている。更に、日
常生活に必要な会話力を養ったり、読むことに関しては黙読・速読力を養う。書
くことに関しては、手紙などを書けるようになる事。また、文法の説明に関して
は言葉が機能する助けをするとし、また、社会・文化現象の情報を提供すること
である事が記されている。8
技能型教材でも、日本語の四技能力「聞く・話す・読む・書く」を伸ばし、総
合的な日本語の能力を高めていくことを目標にしている。そして、言語習得の目
標を「正確さ」「流暢さ」「複雑さ」がバランスよく高められるように配慮してあ
ると記されている。9 他の技能型教材では、目的は記されていないが、話すこ
とと聞くことの外国語教育用のテキストである。10
では、国語教科書の目的は何であろうか。平成20 年度(2008年)の文部科
学省『新しい学習指導要領』の国語科編の目標を見ると、「国語を適切に表現し
正確に理解する能力を育成し,伝え合う力を高めるとともに,思考力や想像力を
養い言語感覚を豊かにし,国語に対する認識を深め国語を尊重する態度を育てる
こと」と記されている。11 そして、伝統的な言語文化と国語の特質に関する事
項では、「昔話や神話・伝承などの本や文章の読み聞かせを聞いたり,発表し合
ったりすること」と記されている。12 日本語でコミュニュケーションが出来て
言葉を大切にすることを基本としている。更に、教材の選択については,「科学
的,論理的な見方や考え方を養い,視野を広げるのに役立つこと。生活を明るく
し、強く正しく生きる力を育てるのに役立つこと。生命を尊重し、他人を思いや
る心を育てるのに役立つこと。自然を愛し、美しいものに感動する心を育てるの
に役立つこと。我が国の伝統と文化に対する理解と愛情を育てるのに役立つこと。
日本人としての自覚をもって国を愛し、国家、社会の発展を願う態度を育てるの
に役立つこと。世界の風土や文化などを理解し、国際協調の精神を養うのに役立
113
つこと。」等とある。13 国語教材を通して自然を愛し、伝統と文化に対する愛
情と理解、また、愛国心や国家についての繁栄や国際協調などを強調している。
更に、心の成長までも国語教材で養おうとしている。例えば、強く正しく生きる
力を育て、生命を尊重し、他人を思いやる心を育てる点などである。このような
点は国語教育の特色でもある。日本語教科書は、日本の事項を紹介し、日本に興
味を持たせる内容を扱ってはいるが、物語や伝記や自然を題材に含んでいない。
また、コミュニティーとの連結も考慮したい。この様な点は、今後の日本語教材
作成に参考になるのではないだろうか。
5.文化の取り扱いについて
『広辞苑 』によると文化とは、「人間が自然に手を加えて形成してきた物心
両面の成果。衣食住をはじめ技術・学問・芸術・道徳・宗教・政治など生活形成
の様式と内容を含む。文明とほぼ同義に用いられることが多いが、西洋では人間
の精神生活にかかわるものを文化と呼び、技術的ニュアンスが強い文明と区別す
る」とある。14 また、『大辞林』によると、「学問・芸術・宗教・道徳など、
主として精神生活から生み出されたもの」とある。15 日本語教科書で扱われて
いる文化は生活様式で、根底に流れる精神生活の説明が学習者には必要ではない
だろうか。
総合型教科書にある文化項目では、自己紹介、名刺の交換、和室、交番、教育
制度、大学生の生活、昔と今の男女の遊び、買い物とデパート、日本の食べ物の
習慣、日本の家族、日本の休日、日本の病院、日本の天候、旅行、自動販売機と
電話、郵便、家族構成、経済と労働、日本の都市の道路、鉄道、贈り物、日本で
の就職等広範囲に渡って日本を紹介している。また、他の総合型教科書でも、日
本の大学、通勤、交番、アルバイト、年号、国民の祝日、碁・将棋・マージャ
ン・パチンコ、日本のスポーツ、お茶、日本のお金、旅館、みどりの窓口、駅弁、
温泉、マンション、日本の家具、義理、贈り物、交通機関、お酒・タバコ・薬、
日本の医療、公衆電話、郵便、テレビ局と新聞、漫画・アニメ、ポップ・カルチ
ャー、公害、詩、タブー等を紹介している。しかし、ただ日本の生活様式や事項
の説明だけでは根底に流れる精神生活を扱っていない。例えば、お鮨などは日本
の食べ物の代表としてあげられるが、そこには、酢を使用した「保存」、小さく
て持ち運びやすく食べやすい「コンパクト性」、色や形が楽しい「色彩」等の日
本根底に流れる精神生活までを教師(又は教材)は説明する必要があるのではな
いだろうか。
日本語教育での文化の導入については様々な意見がある。例えば、導入の時期
であるが、「基本的な言語技能が定着して、授業の焦点が話し言葉から書き言葉
へと移った上級レベルに入ってから始める方が良い」という意見もある。16 ま
た、「学習者が言葉そのものを習得しようとしても、そこには限界があるので、
初級から文化を導入するべきだ」という重要であるという意見もある。17 本研
究では、初級レベルから、易しい物語や読み物を導入していくことを提案したい。
そうすれば語彙(複合動詞・副詞・オノマトペを含む)や聞く・話す・読む・書
く四技能の言語運用能力の向上が期待できる。また、日本の習俗・習慣・生活感
114
情・美的感覚・倫理観や日本人の物の見方・感じ方・考え方等も理解でき、上級
者になってからも日本文学を鑑賞する基礎になるのではないだろうか。
7.終わりに
本研究の語彙の比較結果より、国語教科書では複合動詞・副詞・オノマトペを
扱っているが、日本語教科書では余り扱われていない。それらの語彙は、事象・
行動・感情の描写に有効であり文学作品の鑑賞には不可欠な要素である。日本語
教科書や教材では複合動詞・副詞・オノマトペを積極的に含むべきである。勿論、
今までと同じように上級学習者が副詞やオノマトペを学ぶことは意味があるが、
初級者や中級者はどうであろうか。今までの日本語教育では中級以上の学習者が
学ぶ場合が多いようであるが、初級の時点からも少しずつ教材に含めることが可
能であると思われる。確かに英語に翻訳する際には同じ概念の言葉がなかったり
して説明するのに不都合な面もある。しかし、導入の仕方により学習者は日本語
に興味を持つのではないだろうか。
国語教科書には自然を中心とした名詞が多く扱われている。これは、自然をコ
ミュニティーとし、自然からの共通体験を通して日本人としてのアイデンティテ
ィーを形成する役割をしている。また、自然は学習者の周囲の生活環境と密接に
結びついており親しみやすい。更に、国語教科書は伝統文化を大切にすることや
他人の感情なども考慮する倫理的な内容も含んでいる読み物も多い。地球規模で
コミュニティーとの連結について考えれば、自然・平和・環境・社会奉仕などの
読み物や内容を通じて、学習者は地球人としてコミュニティーとの連結にもつな
がる。また、複合動詞・副詞・オノマトペを沢山含んでいる容易な昔話や物語を
日本語教材に取り入れて、初級学習の時点から日本文学や文化を理解する基礎作
りも大切ではないだろうか。
115
注
Acknowledgement: Special thanks to Evelyn Huang, graduate student at Seton Hall
University, for making the preliminary vocabulary list and variable comments on this
paper.
1.国語教科書の検定合格出版社は、光村図書の他に、東京書籍, 大阪書籍, 教
育出版, 学校図書, 三省堂などの6社がある。
2. Makino and Tsutui は Characteristics of Japanese Grammar in A Dictionary of Basic
Japanese Grammar の中で、擬態語・擬声語を 8 番目の特徴としてあげ、擬態語・
擬声語を10のカテゴリーに分け、65の単語の例を示している。Makino,
Tsutui, A Dictionary of Basic Japanese Grammar, Japan Times, 1986, p. 50-56.
3. 新美和昭、山浦洋一、宇津野登久子、『複合動詞』荒竹出版、1987, p. vii.
4. 川瀬生郎 「日本語教材開発・教科書作成に関する課題」『日本語教育』135
号(2007.10)p. 24.
5. 牧野成一・マグロイン花岡直美、2006 年度日本語教育国際研究大会討論会
―全国学習基準の 3C:文化・連結・コミュニティー―『日本語教育』133 号
(2007.4)
6.Makino, Hatasa, Hatasa, 『なかま1』 Houghton Mifflin Company, 1998, p. xiv-xv.
7.Makino, Hatasa, Hatasa, 『なかま1』 Houghton Mifflin Company, 1998, p. xiv-xv.
8.Yasu-Hiko Tohsaku, Yookoso: An Invitation to Contemporary Japanese. McGrawHill, 2003, p. xiv.
9.Eri Banno, Yutaka Ohno, Yoko Sakane, Chikako Shinagawa,『げんき』An
Integrated Course in Elementary Japanese, Vol.1. 1999, p. 8.
10. Eleanor Harz Jorden with Mari Noda, Japanese: The Spoken Language, Part 1. Yale
University Press, 1987, p. xvii.
11.文部科学省『新しい学習指導要領』2008 年, p. 7.
12.文部科学省『新しい学習指導要領』2008 年, p. 20.
13.文部科学省『新しい学習指導要領』2008 年, p. 20.
116
14. 新村出(編)『広辞苑 』岩波書店
15. 松村明(編)『大辞林』三省堂
1955 年, p. 2380
1995 年 p. 2302
16. ウェスリー・M・ヤコブセン「全米国語学習基準の3Cをめぐる課題―アメ
リカの大学における日本語教育の観点からー」『日本語教育』133 号 p. 52.
17. 宿久高・周異夫, 「日本語教育の中の文学と文化―中国における日本語教育の
現状と課題―」『日本語教育』133 号 p. 31-32.
117
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